【書評】グレース・アンド・グリット ケン・ウィルバー

ケン・ウィルバーの「万物の歴史」を読んだ後、こんな書き物を書く人は一体、どんな人物なんだろう?奥さんはどんな人だったんだろう? との一種のミーハー心で手に取った本。

グレース&グリット―愛と魂の軌跡〈上〉グレース&グリット―愛と魂の軌跡〈下〉


案の定、万物の歴史とは全く趣が違う本だった。サンフランシスコ、ボルダー、ドイツのボン、パリなどを舞台に、美男美女、相思相愛のケンとトレヤが悲劇に翻弄されながら、トレヤが死ぬまでの5年間、純愛を貫く。読者は最期にトレヤは死ぬ。。。と知って読むわけから、まるで良質のメロドラマのよう。

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ケン・ウィルバーとトレヤ・キラム
同時に、きわめて正直にプライバシーがさらけ出された本で、時系列に沿って病状の進行、治療の過程や選択、その結果も公開されているから、ガン闘病記として参考になる。理想主義的で「ねばならない…」にとらわれがちだが、同時にリアリストでガッツがある性格のトレヤ。その日記からは彼女の「普通な人」感が伝わってくる。そのさまざまな悩みは地に足が付いていて、スピリチュアルにさほど関心のない読者にも共感できる。そんな普通な女性だった彼女が死に際して達した心境やあり方は、ガン患者でなくても全ての女性がお手本にできるものだ。スマートな知の巨人がこれほど愛した女性は、実に「普通」のまっすぐで生き生きとした女の子で、ケンはトレヤの欠点も含めて全てが好きだったんだなあと思う。

ケン・ウィルバーの「介護者の役割」というエッセーは秀逸。なぜ、介護をされる人でなく、する人の心理的ケアが必要なのかという理由が実に明晰に書かれている。

ケンとトレヤは家を買ったり売ったり、さまざまなスピリチュアル・セミナーに出席したり、最良の治療法を求めて旅行したり、友人とあったり、5年間の闘病生活は結構、変化に富んでいる。

全ての人間は死ぬが、誰もが良い治療を受け、良い介護を受け、良い死に方を選択できるわけではない。たしかにトレヤは平均寿命よりずっと若くして死んだ。だが、選択肢の中から最良と思われる治療方法を選び、愛する夫や友人、家族に見守られながら、闘病期間を通じてひたすら自身の精神の成長に心を傾け、それをほぼ完成させ、医療の犠牲者とならず自宅で安楽死に近い形で死んでいった。(若くして死んだのは可哀相だが)自分の意思で治療を選び、(病気を活用すらして)精神を高めることに専心して最晩年を過ごせたトレヤは幸せだなあと感じた。

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