古民家」カテゴリーアーカイブ

書評:陰影礼讃

高校生のときに学校で読んだときに、暗闇の中に浮かび上がる羊羹や漆器の色の表現に陶然となった。30年ほどを経て、古い日本家屋の壁にからかみを貼る機会があり、表具屋さんが蓑張りした壁を前に、ふと、もう一度、本書を読み返した。

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「日本の美」が生理的に表現されていて、読んでいるだけで、日本建築の木や樟脳やカビの混ざった匂いやシンプルで静謐な空間を追体験できる。だからこそ古典的名著なのだろう。

紙、羊羹、漆器のほかに、谷崎は日本の厠の素晴らしさを称賛する。読むと体験したいと思うのだが、実際には、どんな田舎や寺社に行っても、本書に登場する木製の清潔な便器にはもう出会えない。料亭の行灯の美しさも、その下で照らされる芸者の顔の美しさも、もう失われてしまったものだ。実際、すでに谷崎がこれを書いた時代(昭和8年)からすでに、伝統的な日本家屋や純日本風の設えは滅びつつあり、谷崎自身の自宅にも実際には赤々とした近代的な電灯が灯っていたという。

ありふれたモノの美しさには誰も気づかず、美しいとされるのは、失われていくものばかり。谷崎なら「醜悪」と退けたに違いない、黒電話や石油ストーブ、ちゃぶ台といった昭和の風物もまた、平成の世では「昭和レトロ」として見直されるようになっている。

あと100年もすれば、LED電球の灯りやホットカーペットなどに滅びゆく美を見いだして、それを書く作家が現れるのだろうか。

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土壁、漆喰を塗る

週末にいすみに通い始めて4ヶ月。「心の安らぎ」のための田舎の家だったはずなのだが。。。。

いつのまにか、東京で心身を休めつつ、週末のいすみ生活への準備をし、土曜日から日曜日の2日間が体力と神経の勝負!という生活になっている。日曜日の夜、リバーシティに戻り、サッシとビニールクロス、高気密で清潔な都会暮らしに戻るとほっとする。。。。 続きを読む

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古民家のお手入れ

古民家と東京のマンションを行ったり来たりし始めて3か月。外房線の茂原駅を下りて、レンタカーで南下すると、どんどん緑が濃くなり、空気がひんやり冷えてくる。住んでみるまで知らなかったが、夏場、いすみ市はだいたい東京より1〜4度気温が低い。

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和室好き

和室は嫌いだった。

10年前に住んでいた港区の築30年の田の字マンションのリビング脇の狭小な和室は物置兼幼児のプレイグラウンドと化していた。その後、同じマンションを引き継いだ弟夫婦は、リフォームして和室とリビングを一体化させ、今風の巨大なアイランドキッチンを中心としたモダン・ダイニングキッチンを作った。

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古いモノ好き

古いモノ好きが昂じて、とうとう、田舎に古い家を買ってしまった。

買った家の昔の写真。茅葺き屋根にトタンが乗っていることを除くと今とあまり変わっていない。庭にはニワトリが。

いすみ市に私が買った家の昔の写真。茅葺き屋根にトタンが貼られたことを除くと今とあまり変わっていない。当時の庭にはニワトリがトコトコ歩いている。

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モノとヒト

20代の時には、40代になったら上質の暮らしがしたいと思った。有元葉子さんや門倉タニアさんや桐島かれんさんが提案するような暮らし。たとえば、古材を使った家具、エストニアのリネンや、ふかふかのホテル仕様のタオル。柳宗理さんのキッチンアイテムや、ル・クルーゼとストウブや、北欧のデザイナー家具に囲まれた生活。バスルームはホテル仕様。洋服はマーガレットハウエルでまとめて。そんなイメージを抱きながら徐々にお気に入りのアイテムや雑誌の切り抜きを集めてきた。

こんなイメージの生活

こんなイメージの生活

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【映画評】ベニシアさんの四季の庭

古民家に住み、庭作りを楽しみ、古いモノを大切にするスローライフ。

ターシャ•チューダーの大ファンの私としては、ベニシアさんのこの映画を去年、映画館に見に行くべきだったのだが、見逃した。ロードショーから1年遅れで自宅でDVDを鑑賞。

ベニシア•スタンレー•スミスさんは、NHKの「猫のしっぽ、蛙の手」で有名な京都大原在住の古民家に住む英国人ハーブ研究家。テレビで全国的に名が知れるようになったベニシアさんは数年前からハーブや自然の本も出している。

ベニシアさんの自宅の内装、穏やかな語り口、明るい人柄、暮らし方、作る料理や地元の人間関係、人生訓めいた自作の平易な英語の詩の朗読。テレビを通じて知る、様々な要素が渾然一体となった「大原発ベニシア風ライフスタイル」は魅力的なのだが、良く考えると、これだけ人気が出たベニシアさんの存在は、不思議と言えば不思議だ。

ベニシアさんは、何かの分野で突き抜けた専門家ではない。

正直、ベニシアさんの自宅のインテリアは、女性月刊誌やインテリア雑誌に出てくる家と比べると、野暮ったい。日本に長く住む「和好きの外人」に典型的な、1970年代の民宿っぽい不思議な和洋折衷スタイルなのだ。同じ田舎風でも米バーモント州のターシャ•チューダーの家や、白州次郎•正子の武相荘の和洋折衷の洗練された佇まいからはほど遠い。

武相荘

武相荘

同じ事がベニシアさんのファッションにも言える。赤毛の無造作なミディアムロングの髪にノーメイクの顔、藍染めのエプロン、絣のモンペ姿。少なくともビジュアルが彼女の人気の源泉とは言いがたいようだ。

それと比べると彼女の提案するイギリスの家庭料理は確かに美味しそうだし、デコレーションやテーブルセッティングは上品で温かい雰囲気。イギリスの昔からの知恵に基づくハーブを取り入れる生活も興味深い。

でも、彼女が長年の経験に裏打ちされた筋金入りの料理研究家やハーブ専門家でないことはすぐに分かる。彼女の料理やハーブは、他人に教えるとか、ブランド化して商品にして売り出すとか、そういうことを始めから狙ったものではなく、あくまで素人に毛が生えたような。。。という感じなのだ。

番組に自身が朗読するベニシアさんの英語詩も、映像を抜き去れば、あまりに何の変哲もないものだ。

ベニシアさんが、あらゆる分野で素人っぽいのはある意味当然だ。

現在60歳ちょっとのベニシアさんが古民家に移り住んで自然派の生活を始めたのはかなり遅く、40代後半になってから。彼女の「ロハス生活」はそれほど年期が入ったものではないのだ。

ベニシアさんは20代はじめに来日して、子供が生まれ、シングルマザーとなってからは、京都の市内で英会話学校を経営しながら子育てとビジネスに追われてきた。決して、ハーブや英国式ライフスタイルを一生の仕事にしようとして若い時からロハスな生活を追求してきたわけではない。

それでも京都の大原に住む一般人だった彼女にテレビ局が注目し、案の定、広く人気を獲得した理由は、彼女からにじみ出る「雰囲気の良さ」としか言いようがない。自然体の柔らかい日本語、美しい英語、優しい笑顔、佇まい、ユーモア。独特のパーソナリティに、大原の自然、古民家、英国風の生活スタイルが渾然一体となった姿に独特の魅力があるのだ。その魅力に、どんなハーブ専門家も料理専門家も、筋金入りのインテリア•コーディネーターも田舎好きも叶わない。

一体、ベニシアさんはどんな人なんだろう?

前半、テレビ番組に出てくる通りの「ロハスなベニシアさんの生活」を追った後、映画のメインテーマは突然変わり、思いがけず、彼女のプライベートに踏み込み、その過去や辛い家族関係に光を当てて行く。

イギリスの貴族出身だからといって、ベニシアさんは手作りの優雅な生活をずっと送って来たわけではない。20歳でイギリスを離れ、インド経由で来日した経緯。最初の夫と離婚して3人の子供のシングルマザーとなった。英会話学校を立ち上げて毎晩、団地に一軒づつビラを配った時代のこと。9歳年下の日本人男性との再婚と43歳での出産。出産後、やはりシングルマザーとなり、統合失調症を発症した次女。夫の浮気、家出、怪我。複雑な複合家族の人間関係。それらが次々と明らかになる。

「何もここまであからさまにしなくても。。。」と思うほど乱暴に過去が暴かれ、ベニシアさんの私生活の現在進行形の苦しみも浮かび上がる。映画を見終わると、「優雅にロハスな生活を楽しむ貴族出身の英国人女性」ベニシアさんのイメージは崩れ、「多くの苦しみと哀しみを抱えた人。そうした苦しみ克服するためにこそ『美しくロハス生活がもたらす平安』を大切にしている」という、ベニシアさんの逆説的な真実が明らかになるのだ。

一般に大人は、ひたすら自分の生活の苦しい側面や暗い過去をひた隠し、明るく健全な社会イメージを演出しようとする。ましてやライフスタイルやイメージを商品にして売る仕事をするタレントやセレブが、自分という商品の価値を下げるネガティブな側面を見せることは絶対にタブーだ。

そんななか、いくらドキュメンタリー映画でも、ここまであからさまに「悲しい部分」を他人に見られてしまったベニシアさんは可哀想な気がする。「有名人はイメージが勝負」のはずなのに。

映画を見た後は、暗黒面を持つ、不完全な姿のベニシアさんに強い共感を感じた。その笑顔と飾り気ない人柄、ハーブや田舎暮らしへの情熱の裏側にあるものを知ることで、単なる「お洒落な外人」に見えたベニシアさんとの距離感が縮まった。

真に貴族的な精神を持った人とはベネシアさんのような人なのだ。

というわけで、この映画は単に「お洒落でロハスなベニシアさんのライフスタイル」の映画ではなく、人間の人生の逆説性や難しさを、決して声高ではなく穏やかに伝えるメッセージ性の高い映画だった。冬があるから春が来る。負があるから正がある。冬がなければ春は来ない。負がなければ正もない。。。

ほろ苦い、40歳以上向けの大人の映画です。

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