門倉多仁亜さん

本には2種類ある。「読後に『人生』『生活』『考え方』『仕事』に変化が生じるもの」、と「変化が生じない本」の2種類。

たしか陽明学の先生だったろうか?「読んだ後に何か人生が変わる本しか読む価値がない」と聞いて、なるほどと思ったことがある。

でも読書前と後に変化が生じる本なんて実際には滅多にない。たとえば、この本はとても面白かったが…

ふしぎなキリスト教 (講談社現代新書)

でも、この本によって私の人生に何らかの変化が生じたかといえば、生じてない。

大好きな作家、橘玲のこの新刊本。ぜひ、読みたい。

タックスヘイヴン TAX HAVEN

彼の本は上質なエンターテイメント。でも読んでいる間、その世界観にワープして楽しんでも、読後の私の人生観や生活が変わらないことはほぼ確実だ。

案外、「人生に長い影響を与える」決定的な本は料理などの実用書だったりする。少なくとも作れなかった料理が作れるようになれば、人生は少しだけ変わることになる。

料理研究家の門倉多仁亜さんの本を続けざまに読みながら、そんなことを思った。

最初に読んだのはこれ。

タニアのドイツ式部屋づくり―小さな空間ですっきり暮らす整理・収納のコツ

次は、これ。残念ながら絶版。図書館で借りてレシピをコピーした。

コーヒータイムのお菓子―みんなに愛されてきたクーヘンとトルテ

この本も良かった。

ドイツ式 暮らしがシンプルになる習慣

多仁亜さんはドイツ人ハーフで、人気の料理研究家兼生活コーディネーター。ドイツ人の祖父母や母親から受け継いだ合理的、シンプルでエレガントな生活に関する本を立て続けに刊行している。生活の提案を生業とするいわゆる「カリスマ主婦」だ。

マスコミに登場するカリスマ主婦は多々いる。本屋の生活コーナーには、「シンプル」「綺麗」「お洒落」な料理、インテリアや生活に関する本が溢れかえっている。だが、私がその大半を手に取ることはない。40代後半にもなると、すでに「探索」の時期は終わり、自分の作る料理、生活スタイルや好みのインテリアはたいてい確立しているからだ。

なのに、偶然出会ったこの多仁亜さんのシリーズには恐ろしいくらいハマっている。多仁亜さんのレシピで久しぶりにケーキを焼いてみた。多仁亜さんの提案する収納やインテリアの知恵を実践したことで、狭い我が家は前より片付いて、引き出しの中はスッキリして生活は快適になった。多仁亜さんの本のおかげで私の人生は少しだけ変わったのだ。

別にドイツの文化や料理に興味が合ったわけではない。

多仁亜さんの本と他の類似本との違いは、彼女の本には「自分自身の生活から生まれた正直な提案以外には何もない」ということだ。「こういう●●風の素敵な生活をしてみたら、あなたも楽しくなりますよ」「あなたも『綺麗』に挑戦して、素敵な奥さんになりましょう」みたいなマーケティングっぽい作り物感が全くないのだ。

マーケティング感がないという点では故高峰秀子さんのインテリアや料理の本とも似ている。

コットンが好き (文春文庫)

逆にいうと、自分の生活をそのまま見せているだけだから、どの本も内容は同じ。一冊だけ買えば十分とも言える。

多仁亜さんのスタイルの基本は「ドイツの中産階級のスタイル+東京の狭いマンション暮らし」だ。

インテリアや収納に関するメッセージはごくシンプル。「モノを少なく持ちましょう」、「全てのモノに仕舞う場所を作りましょう」、「キャンドルや間接照明やラグを活用しましょう」、「商品のラベルがむき出しのものは見えない場所ところに仕舞いましょう」、「キッチンの台は何も置かずに綺麗にしましょう」、「水場の水滴は拭きましょう」——これでほぼ全部。メッセージの数は少ない。それが、ごく優しいトーンで繰り返される。

多仁亜さんの本で紹介される彼女の自宅は確かに調和が取れていて綺麗だが、たとえば、雑誌に出てくる外国の邸宅のように、息を飲むほどゴージャスですごいというわけでなない。多仁亜さんの部屋は、「絵画には手が届かないから」、絵はがきが100円ショップの額に入れて飾ってあったり、キッチンには「いろいろな種類の調味料を置く場所がないから、砂糖と酢は2種類だけ」だったりする。彼女が提案する料理も、ジャガイモとベーコンの炒め物、バウンドケーキなど、拍子抜けするほどシンプルで庶民的なものばかり。彼女の生活水準から考えれば、もっと広い家に住んで贅沢な生活が出来そうだと思えるくらいだ。

そんな「あまりに普通」な多仁亜さんの本がなぜ、私も含め、どうしてこんなに多くの人を引きつけるのか?

それは彼女がauthenticだからだと思う。

authenticは「コピーではない、真性」の、という意味。

authenticであることは「品」につながる。

そう。写真で見る門倉多仁亜さんはとても品が良い。彼女の文章には、上から目線で他人を批判する調子や自慢する調子が一切ない。「自分はすごい」感のある人の文章や料理やインテリアはどこか攻撃的だから、それを受ける者の心に「競争」「欲望」「嫉妬」「劣等感」を煽る。「綺麗だな」と思うが、どこか疲れてしまうのだ。たとえば大衆向け女性ファッション誌に登場するファッション、インテリア、料理の多くは、どこか読者を駆り立てる攻撃性がある。

多仁亜さんの本は読者を攻撃しない。インテリアも料理もあっさりしすぎているくらいあっさり。美しい収納もインテリアも料理も、「『私ってすごい』という自己愛に基づく尖った完璧さ」が究極の目的ではない。厳しい世間を生きる自分と家族が「精神がくつろいでほっと出来る(comfortable)」空間と時間を確保するための手段なのだ。そう、「ドイツ風の家族愛と生活の知恵」こそが、すべての本に通じる彼女のメッセージであり、読者が取り入れたいと望む本質なのだ。

authenticでcomfortableであること。攻撃性や批判力より包容力や共感力。温かさ、品の良さや居心地の良さ。自分自身に正直であること。文化を融合すること。慎ましやかであること。折り合うこと、過剰を排してシンプルであること。

多分、21世紀はそういう時代であり、だから多仁亜さんのような人が活躍している。同年代の彼女の料理やインテリア、生き方やあり方はとても参考になる。

Share on FacebookShare on Google+Tweet about this on TwitterShare on LinkedInPrint this pagePin on Pinterest

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です