罪なき者、石もて打て

汚職や不正が露見してマスコミの前で頭を下げるのは大抵、オジサンだ。政治家や大企業の幹部。社会で権力と地位を持っている人の大半が中年から初老の男性だからだ。そうした権力と地位にふさわしい義務を果たさなかったことが明らかになったとき、マスコミは国民を代弁して彼らを糾弾し、社会的制裁を与える。

大きな権力や地位を持たない代わりに社会的制裁からも無縁な私たちは、謝罪する偉いオジサンたちの姿を茶の間で見て、「腹黒いね」、「惨めだね」と溜飲を下げる。

だが、今回、「不正」で社会的制裁を受けたのは、童顔で小動物のような目をした若い女性科学者。

朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/articles/DA3S11077139.html

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http://www.asahi.com/articles/DA3S11077139.html

小保方さんは、所属組織の決定に異議申し立てをし、日本国民に2時間半にわたって自分の行為を説明した。小保方さんは、時として厳しい質問攻撃にタジタジとなりながらも、謝罪し、弁明し、反論した。涙のシーンや、目線がキョトキョトする場面を強調したデフォルメ映像がその晩のワイドショーやニュースに一斉に流され、コメンテーターや評論家からは厳しい論評が出た。

今後も彼女にとって茨の道が予想される。現時点ではSTAP細胞の発見は幻で、発表は大きな過ちだったという考えが優勢だ。だとしても、小保方さんは1億2000万人のバッシング視線に晒されるという点で、ものすごく厳しい社会的制裁をすでに受けている。

割烹着を着た前髪フリンジに立て巻きロングヘアの丸顔の女性の姿がNHKの7時のニュースのトップを飾ったのはわずか2ヶ月前のこと。弱冠30歳のリケジョの画期的な業績は現安倍政権のウーマノミクスの文脈にぴったりハマっており、だからこそマスコミもこぞって囃し立てた。最初の発表が華々しくなければ、ここまで激しく突き落とされることもなかっただろう。

小保方さんは普通のお嬢さんで、根っからの性悪やサイコパスではないように見える。「本当に杜撰で未熟でした。迷惑かけてすいません。でも、STAP細胞はあります!嘘はついていません!悪気はありません」——時として支離滅裂になり、強気になったり弱気になったりする彼女の姿は孤独で痛々しい。

虚偽表示や学歴詐称、粉飾決算に杜撰な品質管理、裏口入学、美容整形、誇大広告。社会は嘘で溢れ返っていて、嘘のないところは探すのに苦労するほどだ。私たちの社会は競争社会だから、目立つために、差別化のために、キャリアアップのために、ライバルを負かすために、少しでも見た目やイメージを良くし、世間にアピールする物語を作ろうと必死だ。

一般世界の嘘の許容範囲は学問の世界よりずっと広い。勝者の黒はやがて白になるから、大切なのは真実より勝つことだ。重要なのは嘘が違法にならないように迂回することだったり、嘘がバレるまでの時間稼ぎであったり、万一バレた場合の言い訳を考えたり、制裁の大きさを予想して裁定することだったりする。

多くの場合、嘘をつくかつかないかを決める基準は露見したときのマグネチュードの大きさと事態の収拾可能性に対する読みであり、倫理観ではない。

大きなものから小さなものまであらゆる嘘がある。なにも大企業や政治家だけではない。市井の私たちだって小さなバレない嘘を重ねながら生きている。

筋金入りの悪の計算づくの腹黒いシステマチックな嘘。世間に露呈しない無数の悪。それに比べて、小保方さんの「嘘」はあまりにトホホで、あまりにナイーブ。そしてその代償はあまりに大きい。

小保方さんは、私でもあり、あなたでもある。汝、罪なき者、石もて打て。関係者や科学者は彼女を批判できるかもしれないが、外野はバッシングすべきでない。どのような形であれ、まだ若い小保方さんが信用を回復して再起を図れることを祈っている。

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