眠り口銭の水流

【眠り口銭】売買において仲介などの役務を提供することなく,従来からの商慣習・取り決めにより自動的に入る手数料。 --大辞林より

小さい頃、「仕事でお金をもらうのは大変だ」と言われて育った。だが世の中には、2つの違う種類の仕事があるというのが私の実感だ。

大変な仕事とは、新たなビジネスの仕組みや流れを生み出す仕事や、ゼロから新たな顧客を獲得する仕事、他人を感動させたり、商品自体の価値を他人に認めさせる仕事だ。それは、心身を消耗し、全身をコミットしなければ出来ない仕事である。それに対し、一旦生み出された仕組みの中で自動的に流れるキャッシュを管理してその管理によって報酬を得る仕事、つまり眠り口銭的な仕事はずっと容易い。すでに出来上がった大きなお金の流れのスムーズな運行を維持管理をする仕事は、高等教育を受け、対人能力や管理能力がある人なら、特殊なやる気や技能がなくても、心身を消耗することなく遂行できる。そうした「事務」や「管理」の仕事は、付加価値を一切、提供しないで自動的に入ってくる眠り口銭と厳密には同じでないが、特段のリスクを負うことなく確実にお金が入ってくるという点で、リスクを伴うビジネスとは本質的に性質が違う。そして、世の中の大半の人は後者の仕事をしている。

たとえば、ブルガリアヨーグルトという商品を作って売るビジネス。ヨーグルトそのものが日本人の食生活に定着していなかった最初の頃は、賭けを伴う困難な仕事だっただろう。だが、ブランドが確立し、当たり前のようにスーパーに商品が陳列され、全国の消費者が何も考えずにそれを買い物籠に入れるようになった今、リスクの低い安定した巨大ビジネスになった。

創業からわずか20年足らずで日本を代表する企業となった楽天やソフトバンク。全てをゼロから立ち上げた最初の10年と、ブランドの認知度が進みさまざなビジネスが自動的にキャッシュを生むようになった次の10年では、孫さんや三木谷さんの苦労の質はまるで違うだろう。

ヒットする製品を新しく生み出したり、新たなファンを獲得するのはどんな商売でも大変だ。投入タイミングの読み、他者の欲望に対する想像力、商品を魅力的にする工夫や巧妙な価格設定、顧客や取引先の門前払いにへこたれない根性、リピートさせるための仕組み作り。。。。こうしたすべてに全身全霊を掛けても、試みは失敗することが多い。売れなければ努力も労働時間も一切、お金に転換されない。

眠り口銭の管理には新たな事業創造が持つエキサイティングさはない。その代わり次世代の人々は失敗のリスクが殆どなく、毎日自動的に入ってくるキャッシュの水流の恩恵を受けることが出来る。

大企業や大手金融機関の経営が安定し、そこで働く人の年収が高いのは、そこで働く人たちがより働いて多くの価値創造をしているからではない。長い歴史と商売の仕組み作り、信用の貸し借りの間で培われた、低リスクの眠り口銭的事業を沢山持っているからだ。大切なのは、その管理を任される身分になることだ。多くの大企業の幹部の人々の最大の仕事は、金の乳牛である複数の眠り口銭的事業を維持管理してそれが細らないように気を配り、複数の権益を巧妙に調整して人々の納得のいく形で生まれる富を分配する能力に長けた人々であり、そうした能力は、新たな価値を生む能力やリスクテイク能力、チャレンジ精神とは基本的に異質のものだ。

日本の若者の大企業志向が強く中小企業に人が集まらない理由は単純で、眠り口銭の深い水流が大企業に集中しているからだ。安定した眠り口銭の大きな水流から外れなければ、特殊な能力のない人も苦労が少なく、安定した人生を送ることが出来る。

眠り口銭は既得権益とも言い換えられるし、完全に確立したビジネスモデルとも言い換えられる。ブランドの概念からも近い。真に偉大な経営者とは、眠り口銭の一切ないところから眠り口銭の構造を作りだして永続化した人。それ以外の多くの人々は、ひたすら与えられた眠り口銭を維持管理する仕事でお給料をもらっている!

 

Share on FacebookShare on Google+Tweet about this on TwitterShare on LinkedInPrint this pagePin on Pinterest

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です