概念と実践

概念と行為はまるで違う。

ビーズの本を見てアクセサリーの仕組みを理解することと、実際にアクセサリーを作ることは違う。

株式トレーディングの本を読むことと、実際にトレーディングすることの間には天と地の差がある。

恋愛本を読むことと実際の恋愛もまるで違う。

仏教本を読むことと、仏教の教えを実践することも違うことだ。

先週末、「一日仏教瞑想指導」というセッションに参加してそのことを実感した。

大盛況のそのセッションは大人気で、30平米ほどの部屋に50人以上の人がすし詰め。部屋に椅子はなく、座布団の上に座って、数時間続く師の話を聞く。

これが、実に苦しい。

苦しいって、話を聞いているのが苦しいのではなく、椅子がないところで、じっと座っていることが。

何も結跏趺坐を組んで瞑想しているわけではない。正座してなければならないわけではない。でも椅子の生活にすっかり馴れた身には、そもそも足を曲げてじっと座っていること自体が厳しいのだ。正座しても、横座りしても、とんび座りしても、胡座をかいても、どんな格好でも1分以上、同じ姿勢を保ってじっとしているのが難しい。

ネックになるのは股関節と足首の痛みだ。体育座りのように足を投げ出せれば良いのだが、そのスペースがない。逃げ場がない。

まるで多動症の子供のように、もごもご、ゆさゆさ、身体を揺らす私。「日本人の私ですらキツいから、多分外人に仏教修行ってきついだろうな」、「子供のときバレエが下手だったのも身体が硬かったのが原因」など、自分の肉体の感覚から生まれるフワフラした思いに揺れて、「今、ここ」に集中できない自分がいる。

まもなく師の話が終わり、瞑想の訓練に入る。

師は、「じっと座っているのはそもそも苦しいのです。生きることが苦しいんですから。足が痛くなったり、顔がかゆくなったりします。その時には『足が痛い』『顔がかゆい』と感じて実況中継しなさい。それだけ。そして痛みやかゆみを『放っておく』んです。妄想を起こしちゃいかんのです。放っておけば痛みやかゆみは引いていくんですよ。なのに、動くことで痛みを減らそうとする。でも動いたって、結局、痛みは減らないんですよ!そのことを分かって、痛みに立ち向いなさい。大丈夫、仏教の瞑想は極めて安全なものですから、それで身体が壊れたりはしませんから」と言った。

その言葉に従って、足の痛みを我慢して、背筋を伸ばして座り直す。

でも。。。。痛い、痛い、痛いよ!

痛いけど、足を動かさない。上半身を揺らさない。身体を曲げない。それを3分やってみる。痛くても息を止めない。むしろ深く呼吸することで痛みを逃す。痛みを放っておく。

ふと見ると、師は微動だにせず、まるで物体のように端然と座っている。その姿は実に美しく「寂静」そのものだ。

心を落ち着かせるには、まず身体の落ち着きが必要。仏教心理学は呼吸を通じて心身がつながっていることを重視する。

そもそも自分の肉体を統御できない人、静かに座っていられない人に、肉体よりつかみ所のないこころを統御できるはずないのだ。

考えてみれば、茶道、太極拳、ヨーガなどの東洋に生まれた技術はすべて、肉体の統御を通じた精神の統御をテーマとしている。茶道や太極拳のゆっくりした動きは、心を散らさずに「今、ここに」に集中するためのもので、そのスローモーションの動きはヴィパッサナー瞑想そのものだ。身体の柔軟性を高めるヨーガは「落ち着いて静かに瞑想できるように坐れる肉体」を作る訓練に他ならない。

仏教の芸術には、怒った人相をしている忿怒相の仏像が多い。

執金剛神立像、奈良東大寺

執金剛神立像、奈良東大寺

「慈悲」や「非暴力」を説き、怒りを否定する仏教なのに、なぜ、怒りの形相の仏がいるの? と不思議だった。でも仏教の実践には、痛みや苦しみに立ち向かい、訓練に耐えられるだけの強固な精神や覚悟が必要だ。それが忿怒相の姿に象徴されているのだった。そもそも、じっと座っていられないような肉体には智慧は宿らない。

逆に言えば、ある人に智慧が宿っているかどうかは、その人の身体の落ち着きを見ればある程度分かることになる。

難しい仏教理論を勉強するより、まずは股関節と足首を柔軟にして「じっと坐れる身体」を作ろう。

 

真向法は「ちゃんと坐れる肉体」を作るための体操。

真向法は「ちゃんと坐れる肉体」を作るための体操。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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