【書評】ハウスワイフ2.0

アメリカは幅の広い国。「女も企業で出世しよう!」と唱えるリーンインのような本が売れるかと思えば、こうした「会社に使われない生き方の方がイケてる!」という本も評判になる。
ハウスワイフ2.0

この本の原書のタイトルは、”Homeward Bound(早く家に帰りたい)”。邦題は「専業主婦に回帰する女たち」でも良かったのかもしれないが、より斬新なイメージを打ち出すために「ハウスワイフ2.0——ハーバード卒→新しい主婦」としたのだろう。

「人口減少社会の活力の源泉は女性。日本経済活性化のために企業は女性を役員にしましょう、保育園を充実させましょう」ともともとフェミニストだったとも思えない安倍首相までが女性の企業内の地位向上を国策に据えるようになった日本の風潮から見ると、「女性が企業社会に背を向け、家事や伝統に回帰している」というアメリカのトレンド•レポートは不都合な情報かもしれない。だが、「専業主婦、家事」という言葉を、「ロハス、エコ、手作り、田舎、オーガニック、エシカル、ノマド、クリエイティブ」といったキーワードと結びつけてみると、男女を問わず日本にも同様の流れが深く広く浸透しつつあることが分かる。本書の立ち位置は例えばこの本とも似ている。

里山資本主義 日本経済は「安心の原理」で動く (角川oneテーマ21)

なぜ、ハウスワイフ(専業主婦)「2.0」なのか。

「1.0」と「2.0」の違いは、前者が女性が専業主婦にしかなれなかった時代の専業主婦であるのに対し、後者は高学歴や企業社会のキャリアを捨てて、伝統、家事、手作り、子育てを敢えて選んだ専業主婦だという点である。

「男の人と同じようにお金を稼ぎたい」と思って働いてきたが、「結局、オフィスより家にいる方が楽しい」「家事の方が仕事よりクリエイティブ」。。。。それは前半生を証券界で働いてきた私の偽らざる本音だ。

証券会社で一日10時間働いていた30代の頃は、夜、独居アパートでフランス刺繍や着物の半襟縫いで無心に手を動かすのが日課だった。好きなものは古い日本家屋、フランス雑貨、洋裁、ターシャチューダー、チベット文化、アーユルベーダ。休日は少しでも長い時間、会社のことを忘れようとしていたし、休暇は少しでも会社から遠く離れたところで違う空気を吸おうとしていた。

子供が出来るとますます家が自分の居場所になった。

でも企業社会の自分を仮の姿としてしか捉えられなかったのは恐らく私だけではない。パンを焼いたり、味噌や漬け物を作るのが好きな女性、ビーズ作りが好きな女性、手作り石けんを作る女性。弁護士、医師、会計士、企業幹部など早々たる社会的地位を持つ同年代の女性も裏を返せばロハス好きが実に多い。女性だけではない。男性だって、「できればもっとロハスに暮らしたい。でも辞めたら生活が成り立たないから会社に所属せざるを得ない」という人ばかり!仕事が生計を建てる手段でしかない人がどれだけ多いことか。

反対に、私と同年代で主婦になった女性で「大企業でもっとばりばり働きたかった」「昇進したかった」「仕事を辞めるべきではなかった」という人には殆ど出会わない。

ロハス、エコ、手作り、田舎、オーガニック、エシカル、ノマド、クリエイティブ….

魅力的なキーワードの弱みは、それが現代の社会の仕組みの中で経済力とそうしたキーワードには「専業主婦」と親和性があるのである。

本書は言う。

家事や生活をロハスに楽しむ専業主婦になれるのは高学歴女性=夫が高学歴高年収の人だけ。そのロハス生活はあくまで貯金や夫の非ロハスな仕事の収入で支えられなくてはならないのだ。「ハンドメイド製品」や「ライフスタイル」を収益化出来るのは一握りの人。ハンドメイド製品をEtzyに出店してビジネスにしようとすれば、一日13時間編み物を続けるという途端にロハスとは程遠い生活に追い込まれる….

本書は専業主婦生活のネガティブな側面(主に金銭面の脆弱さ)も指摘しており、著者は「ロハスな専業主婦になれば幸せ!」を説くエバンジェリストではない。それどころか「所詮、ハンドメイドでは稼げない」、「今は手作りバブルの時代。いつかバブルは弾ける」と悲観的な見方もしている。

確かに専業主婦ブームは一本調子では続かないかもしれない。だがロハスのトレンドは持続するだろう。アメリカより周回遅れの日本では、恐らくこれから本格的にハンドメイド、伝統回帰の流行が起きるに違いない。これまでは「デフレで不況でリストラだからロハス」だったのが、これからは「インフレで好況で選択肢があるからこそロハス」になるのだ。

自分の生き方が啓発されるほどの高みを持つ本ではなかったが、アメリカのロハス好きな人々の沢山の事例が面白い。読んで良かった。

それでは良い週末を!

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