【書評】「密息」で身体が変わる

身体や姿勢、フィットネス関係の本を沢山読むと、たまに複数の本でモロに対立する主張に出会って戸惑うことがある。

ハイヒールが姿勢にいいとか、悪いとか。

ハイヒールはくだけダイエット (講談社の実用BOOK)←こんな本もある。。。。

骨盤前傾がいいとか、後傾がいいとか。

「骨盤おこし」でからだの不調は消える (PHP文庫)←骨盤前傾で股関節が解放される

ウェイトトレーニングがいいとか、悪いとか。

「ゆる」スポーツ・トレーニング革命―ウェイトトレーニングはもういらない!? (DVD book)←筋力を付けるより脱力することが大切

結局のところ、理想的な身体やトレーニング方法の絶対的真理はない。理想の身体そのものが読者の年齢、性別、目的、流行や時代の求める身体像によって変化する。溢れる情報の中から私たちは、目的に合わせて自分が共感できるメソッドを自由に選択し、試みれば良いのだろう。

そうした中、この本は他の健康本同様、「特定の呼吸法」を紹介して、それを推奨する本なのだが、必ずしも呼吸法の優越性と健康や運動能力の向上につながる効果を宣伝する本ではない。

「かつての日本にこのような呼吸法が存在した。そうした呼吸法からこのような日本文化が生まれた」として日本人の感性を身体と呼吸法の観点で説明しまくっているところが断然、ユニークだ。

「密息」とは、腰を落とし(=骨盤を後傾させ)、腹は吸うときも吐く時もやや張り出したまま保ち、どこにも力を入れず、身体を動かすことなく行う深い呼吸のことだ。

外側の筋肉ではなく深層筋を使い、横隔膜だけを上下することで行うこの呼吸法では、一度の呼気量、吸気量が非常に大きくなり、身体は安定性と静かさを保つ事ができ、精神面では集中力が高まり、同時に自由な解放感を感じると言う。

具体的には、着物姿で腰に結んだ紐が緩んで着崩れしないように、息を吸う時も吐くときも腹圧をかけて腹を膨らませた姿勢を保つような呼吸法だという。

お腹ぽっこり、ちょっと猫背気味で顎を出した姿勢の江戸時代の落語に出てくる八つぁんの呼吸は密息だったのだろう。

こんな感じ?

江戸時代の日本人はこんな感じ

このような呼吸が身体に与える最大の効果は、呼吸によって上下にスイングしない静かさが生まれることだ。

ちなみに、骨盤を前傾させて、胸を張って、大きな腹式呼吸をすると、身体は呼吸とともにスイングする。これが白人や黒人の呼吸法であり(乾燥した平地で暮らす狩猟民族の姿勢と呼吸法?)、私たち戦後生まれの日本人は、子供の頃から、一貫してそのような呼吸法が良いものだと習って来た。

私たちは生活の洋風化によって、ご先祖様と同じ姿勢と呼吸法を忘れてしまったにも関わらず、白人のような骨盤前傾姿勢+腹式呼吸もまだ完全にマスターしていない。中途半端な状態にあることから、日本人の呼吸は浅くなり、キレやすい人が増え、社会が閉塞しているというのが筆者の主張だ。

古来の伝統的な建材や建築方法を失い、欧米風の様式もマスターしきれていない、戦後の日本の醜い一戸建て住宅の町並みと事情が似ているような。

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密息で生まれた日本文化として筆者が挙げているのが、「静止する文化」。微かな変化を味わう気風や水平の感覚(日本料理、書道、香道、日本建築、小津安二郎の映画)。これらは、呼吸によって上下しない身体からこそ生まれたというのはなるほど卓見だ!

「すごい!」と思ったのは、日本人のファッション感覚も密息で説明しているところ。筆者は外国人に「日本人の服装の取り合わせはtoo muchだ」と批判されたと言う。これは私もヨーロッパに住んでみて強く感じたことだ。同じ洋服を来ているのに、日本人と欧米人の感覚は随分、違う。

欧米人は全体のシルエットと色の取り合わせの感覚の妙を重んじる。それに比べて日本人のファッションはゴチャゴチャしてバランスが悪い。細部にばかりこだわり、全体のバランスに無関心。やたらフリルやリボンの付いたブラウスやキラキラの携帯アクセサリーやストッキング。これらは日本にしかない。

筆者によれば、これも密息のせいだという。日本人は密息のおかげで、視覚のフォーカスインとフォーカスアウトを自在に即座に行えるため、全体性の把握とは違う尺度で模様の妙を味わうせいだという。日本人のこうした特別な視覚から生まれたフラット感覚がヨーロッパと違う日本の絵画を生み、俳句や茶の湯や落語を生んだ、という。

ごてごてしたネールアートが日本でだけ発達した理由も同じだろう!

ごてごてしたネールアートが日本で発達した理由もフォーカスイン•フォーカスアウトのせいだ!

「日本はこう、外国はこう」という文章は、子供の時から読み飽きるほど読んでいるが、この「密息理論」ほど、「すごい!なるほど」と膝を叩いたことはなかった。

尺八奏者で米国での生活も長い筆者は、密息を知り、それを実践することで演奏技術を向上させた。その経験に基づいて、読者にもぜひ、密息を試すよう薦めているが、それによって腹式呼吸やリズム感、くびれたウエスト、まっすぐな足や自由な股関節といったものを捨てろと言っているわけではない。ただ密息を試してみることで、自分のルーツや伝統文化の豊穣をよりよく味わい、日本人を取り戻すことが出来ると言っているのだ。

猫背、骨盤後傾、正座、和式トイレ、和服、畳、ちゃぶ台、お茶漬け。。。。懐かしい、心安らぐ世界。杉村春子や笠智衆の声、物腰、身体。たまらなく小津安二郎の映画を見たくなってきた。

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