専門家のポジショントーク

あらゆる商売は、売り手と買い手のニーズが合致したところで行われる。とはいえ、商売の方法は商品と市場環境によって千差万別。私に言わせると商売は3つに分けることが出来る。

1正直でシンプルな商売

八百屋の野菜、マッサージ屋のマッサージ、定食屋の定食。現代日本のようにモノが過剰な場所で、こうした日用品の売買で売り手の事情が買い手の事情に優先することはほとんどない。買い手は見て、触って、食べてみることで、自分が買うべき商品を見定める。同じ商品が他の店でもっと安ければ、安い店で買う。一度買って後悔した商品は二度とリピートしない。そんななか、売り手は、買い手に気に入ってもらえるように商品に工夫を凝らし、新製品を開発し、品質を保証し、競合可能な価格設定し、自分の商品が安定的に売れることを祈るしかない。どんなに腕の良いマッサージ師も、一時間4000円のマッサージを提供する店の隣で、自分のサービスにその倍の値段をつけるのは難しい。

2 シンボリックな商品をマーケティング力で売る

これが健康食品、化粧品やファッション用品、嗜好品などの象徴的な商品になると、買い手の立場がかなり後退する。こうした商品は、品質や効能の優劣が一目で明らかにならず、売り手はそれを、美しいパッケージや、広告、「自然に良い」「身体に優しい」などのプロパガンダで売ろうとするからだ。消費者は、ブランドへの信頼感や生産者側の情報発信力によって購入を決定するから、ブランド力や説明力のない商品や広告が不十分な商品はどれだけ良い商品でもなかなか売れない。こうした商売も顧客が喜んで買って満足するのであれば、決して不正直、不正直では決してないものの、野菜や果物と比べると、売り手が買い手に及ぼす力がずっと強い。「女優が着ている旬なブランド」や「途上国の人たちを助けるエコなブランド」といった象徴的な商品の売り手は、原価100円の商品を1万円で売って大儲けできる可能性がある。

3 専門知識をポジショントークで売る

より「怪しい」商売は、売り手と買い手の間に圧倒的な情報格差が存在するところで行われる。具体的には医療、金融、法曹、コンサルティングといった分野だ。これらの分野の専門職は、高収入が保障される反面、職に就くまでに高価な教育投資が必要になる。自らの教育投資や立派なオフィス、機械などへの投資を償却するため、こうした専門家は需要を安定させ、時として需要を人工的に生み出すことが必要になってくる。

歯医者さんが、やたらに検査のレントゲンを取りたがるのは、購入した高価な医療機械の投資回収の必要があるからで、風邪で内科の医者に行って数種類の薬が出るのは薬の処方を収益源としているからだ。「風邪は家で大人しくしていれば治るから、薬など飲まなくても大丈夫ですよ」という真実を医者が言うのは身内だけなのだ。

証券マンに「将来に向けて投資がしたい」と言う素人の客に、じゃあ、「ソフトバンク株を買ったらどうですか?」という証券マンはいない。かならず、現物株でなく、投信、それも複雑な構造の投信を勧める。「その方がリスク分散になるから」と言うが、それは嘘で、本当はその方がずっと儲かるからだ。「相続対策をしたい」と言う素人の客に、信託銀行は必ず、「アパート経営をしたら?」と言い、「毎年100万円ずつ、お子さんとお孫さんに現金を渡しなさい」とは言わない。前者は自分の商売につながるが、後者は信託銀行に一銭の得にもならないからだ。保険会社が「××のような補償内容をオプションでつけた方が良い」と言うのは、9割方、客のためではない。それによって保険料を水増しするためである。

専門家は、どんな形でも自分の利益につながらない助言は絶対にしない。商売である以上、ある意味、無理もないことだ。彼らの、「あなたのために」「日本のために」「世界のために」は全て、「自分のために」であり、「高付加価値商品」とは、「ボロ儲け商売」のことである。そうした時、専門家を同じだけの情報量を持つ顧客は、「それってもしかしてポジショントークじゃないの?」と感じることが出来るし、必要ならば質問したり抗弁できる。だが、大半の顧客は、専門家に知識量で劣っているから、言われたことに理屈で対抗出来ない。そうした力関係を専門家は知っているから、悪い専門家はギリギリまで、顧客をカモろうとする。

医者の医者嫌い、ではないが、私は買い手をタブらかすポジショントークの専門家をなるべく避けるようにしている。自分が金融商品を買うときは、アナリストやエコノミストや営業マンの言うことを信じない。保険にも入らない。複雑で訳の分からない商品は絶対、買いたくない。広告やマーケティング先行型の健康食品や高級化粧品などのシンボリックな商品もなるべく買わないようにしている。

とはいえ、商売する側に立場を変えれば悩ましい。正直な商品を正直に売るだけでは一向に儲からないからこそ、売り手はシンボリックな商品に移行し、専門家はポジショントークで客に要らない商品を売ろうとするわけだ。「正直な商売」=「儲からない商売」なんだろうか?

売る人として、買う人として、今後も追求したいテーマの1つだ。

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