土壁、漆喰を塗る

週末にいすみに通い始めて4ヶ月。「心の安らぎ」のための田舎の家だったはずなのだが。。。。

いつのまにか、東京で心身を休めつつ、週末のいすみ生活への準備をし、土曜日から日曜日の2日間が体力と神経の勝負!という生活になっている。日曜日の夜、リバーシティに戻り、サッシとビニールクロス、高気密で清潔な都会暮らしに戻るとほっとする。。。。

隅田川の見えるリバーシティの風景も大好き。

隅田川の見えるリバーシティの風景も大好き。

まあ、いすみの古民家は買ったばかりでリノベーションのまっただ中だから、まだくつろげないのもしかたない。来年は縁側でのんびり西瓜を食べる日も来るだろう。

縁側でゆっくりする機会は、まだあまりない。

縁側でゆっくりできる機会は、まだあまりない。

一通り生活できるだけの荷物を東京から運びこみ、最低限の必要品を買いそろえ、障子貼りをし、雨戸とガラス戸の軋みを大工さんに小直してもらった。そして初めて着手した本格的改修は、座敷の壁だ。

いすみの家の座敷と奥座敷の壁には一面に「からかみ」が貼られていた。からかみの下紙の古新聞の日付から、からかみが前回貼られた時期は大正末期だったことが分っている。貼られてから100年近くを経た壁紙は、さすがに経年劣化が著しく、変色してところどころビリビリ破れていた。座敷と奥座敷を仕切る4枚襖もボロボロで建て付けが悪かった。

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いすみの家の主な3つの部屋は、デイ(居間)、座敷、奥座敷。

シンプルで骨太な印象の漆喰仕上げのデイに対し、棟門から式台を通って入れる座敷と奥座敷は「古民家」で片付けるには勿体ないほど、数寄がこらされた洗練された空間だった。この空間で、久貝家の人々は、一体、どのような賓客をもてなしていたのだろう?

私は襖を新調し、からかみを壁に貼り直すことで、この美しい座敷を往年の姿に戻したいと思った。それで、日本家屋の造作についてにわか勉強をした。壁に紙を貼るなら、糊でベッタリビッチリと貼る「クロス貼り」ではなく、襖と同じ手法で袋貼りで下処理してから、ふんわりとからかみが浮かび上がるような貼り方をしたいと思った。

http://www.jia-tokai.org/sibu/architect/2005/08/washi.htm

そのことを、いすみ在住の建具屋さんに相談したところ、お隣町の一宮に住む経師屋さんを紹介してくれた。

からかみは、浅草の東京松屋と大阪の中野表具店に探しにいって選んだ。

古いからかみを壁から剥がす作業は、久貝家の歴史に関心を持ついすみ市の教育委員会の方が手伝って下さった。からかみの裏紙に使われている紙に書かれた文字を資料館に持ち帰って解読し、いすみ市の郷土史を研究しておられるのだ。

そこまでは、とても楽しい作業だった。

だが、案の定、古い紙を剥がした後に現れた土壁は、ヒビ割れして、浮き上がり、触るとポロポロと土の破片が崩れ落ちるような状態。経師屋さんは、「壁は丈夫でツルツルの状態でないと、紙が貼れません。左官屋さんに壁の整備を頼んでください」ときっぱりと私たちに告げた。

高価なからかみと経師屋さんからの見積書だけで、十分にお財布が痛かった私たちは、「壁をツルツルにする下処理の作業」を左官屋さんにはお願いせずに、自分たちでDIYしようと決心した。どうせ、上に紙を貼るのだから、完璧に美しい壁である必要はないのだから。ただツルツルにするだけなら、きっと私たちにできる。

壁を壊している最中は、その後の修復がどれだけ大変かを知るよしもなく。。。

一番ボロボロだった土壁を壊し、ツルツルの石膏ボードに張り替えるべく、軽装で、養生もしないで、勇ましく壁を壊す無謀な私。

ところがハンマーで土壁を壊していたら振動で反対側の部屋の壁にもヒビが入ってしまった。部屋中を土ぼこりが舞い、半分ほど壁を壊しただけで、床にはゆうに100キロを超える膨大な土の山ができた。その土を土嚢に入れて部屋の外に運ぶだけでも大変だった。ほんの小さな一部分を壊しただけでこれなら、もし壁を全部壊したら、とんでもないことになる!

100年前の竹小舞は極めて良い状態だった

100年前の竹小舞は極めて良い状態だった

というわけで、土壁を壊して、そこに石膏ボードを貼る、という最初の計画は壁を2枚ほど壊しかけたところで頓挫した。そして、壊した土壁をもう一度綺麗に塗り直し、崩れている土壁は修復し、その上に漆喰を塗る、という「湿式壁」の代替策に急遽変更することにした。

といっても、壁塗りの知識は皆無。

土壁の復元、漆喰塗りの作業には、日本プラスター社さんのホームページを参考にした。http://www.plastesia.com/club_plastesia/member/melmaga/Melmaga-201141-0075.html

日本プラスター社さんは、上野の研修スペースで「うま〜くヌレール」の塗り方をベタな初心者の私にゼロから丁寧に教えてくれた。また、土壁の修復方法も指導してくれた。プラスター社さんの懇切丁寧な指導がなければ、素人だけの古民家の壁修復は難しかっただろう。プラスターさん、ありがとうございました。

普通の漆喰より硬く、素人にも塗り易い漆喰

普通の漆喰より硬く、素人にも塗り易い漆喰

壊した壁の土に水を入れてもう一度練り直し、

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それを壁に手で塗り付け、

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NPシーラックという薬剤を土壁に吹き付けて接着性を高める。

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この状態で乾燥を待ち、次に「うま〜くヌレール」下塗り用を砂と混ぜて塗り、その後、「うま〜くヌレール」上塗り用を2度コテで塗る。

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こうした作業を奥座敷と座敷の上方の壁面全体に行った。壁によっては、かなり状態が良く、上塗りだけで良いものもあれば、土壁の修復に手間取る壁もあった。

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「とにかく全ての壁をツルツルに!」の一心で家族三人で3度の週末を費やした。高い位置での壁塗り作業も大変だったが、柱の養生、床の清掃、材料作り、道具の後始末といった作業にも結構なエネルギーを費やした。土は重く、漆喰の取り扱いは難しい。梅雨のうっとうしい季節、「ジメジメ、ねちょねちょ」と戦いながらの肉体作業だった。

努力の甲斐あり、3週間後、何とか経師屋さんから「ギリギリ合格」の認定をいただく壁塗りが完成した。

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「どうせ紙を貼るのだから素人でも大丈夫」という気軽な気持ちで始めた作業だが、そこそこ綺麗に仕上がった漆喰壁を見ると、この上に紙を貼ってしまうのはどうにも惜しい気がする。

だが、その惜しいという気持ちも、経師屋さんの仕事が始まると途端に収まった。紙の圧倒的に柔らかく美しい質感と、経師屋さんの丁寧な仕事ぶりを見ているうち、やはりこの座敷は野趣溢れる白壁ではなく典雅な座敷の壁は「からかみ」が正解なのだという気分になる。

これは漆喰壁の上に貼られた下貼りの和紙。下貼りだけでこんなに美しいとは。

これは漆喰壁の上に貼られた下貼りの和紙。下貼りだけで和紙の質感がこんなに柔らかく美しいとは。

初めての本格的な壁塗りの感想。「大変だった」のほかにもう一つは、「コストがかかる」。

最初18キロ入りのヌレールを下塗り用と上塗り用を1缶ずつ買い、届けられた36キロの漆喰を見たときは、十分と見込んでいた。だが、漆喰はどんどん壁に吸収されて足りなくなり、結局、もともとの土に加え、川砂20キロ2袋とヌレール6缶を丸々消費することになった。初めての作業だったから、養生シート、マスキングテープ、はしご、桶、コテ、コテ板なども全部、ホームセンターで購入し、それらの費用を全部合計すれば、材料費だけでゆうに10万円を超えてしまった。

漆喰の使用量が当初予想より嵩んだのは、壁の凹凸が大きかったためだろう。あるいは、下処理なのだから、もともと漆喰のような高価な素材は避け、より良い安価な材料を探せたかもしれない。

もともとは左官の工賃をケチって始めたDIYだが、良心的なプロの左官なら、おそらく、最短、最安の下処理方法を見つけ、効率良く下処理してくれたのかもしれない。壁が仕上がったところでたまたま来訪されたお隣さんに壁を見せて「下処理だけで10万円かかりました〜」と愚痴ったら、「プロに頼んだ方が全然、良かったね〜」と言われ、うなだれてしまった。

それでもDIYを敢行した「意義」を探すとすれば、「壁」という、これまでの人生でまるっきり気に留めたことのない脇役的存在に1ヶ月近く向き合った時間と手間そのものが意義と言えるだろうか。

壁の下処理に取り組んだことで、「本当に大切なことは目に見えない」というサンテグジュペリの格言を実感として噛み締めた。美しい仕上がりは、目に見えない部分の処理の的確さで決まる。日本の伝統建築が美しいのは単にその外見のせいではない。見えないところの丁寧な処理や、見えないところのその美しさの秘密があるのだ。

また、無謀で非効率なDIYを通して、効率性の重要性や「分業」の重要性も再認識した。今の世の中、土壁はほぼ滅び去っており、湿式壁の家もどんどん少なくなっている。完全に自然素材だけで作られた手作りの日本の壁は実に素晴らしいが、こうした壁を作るのにはあまりに手間がかかりすぎることも事実である。

夏休みに入っても涼しい日が続く。力仕事から解放され、しばし、のんびり日本建築の本を読みつつ、経師屋さんの紙貼りの仕上がりを心待ちにする日々。

 

 

 

 

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