和室好き

和室は嫌いだった。

10年前に住んでいた港区の築30年の田の字マンションのリビング脇の狭小な和室は物置兼幼児のプレイグラウンドと化していた。その後、同じマンションを引き継いだ弟夫婦は、リフォームして和室とリビングを一体化させ、今風の巨大なアイランドキッチンを中心としたモダン・ダイニングキッチンを作った。

今住む築20年の佃のマンションにははじめから和室はなかった。なくて良かったと思っている。20年前でもそうだったのだから、今時の東京の新築マンションではとっくの昔に和室は絶滅しているだろう。和室が敬遠される理由を考えてみた。

和室が敬遠される理由その1:インテリアデコレーションの制約

ソファとテーブルの色と材質の組み合わせ、壁の絵、照明器具や収納、テキスタイル。そんな「インテリア」のアイディアは洋室でしか膨らまない。そもそも日本のインテリアの情報の99%は「オシャレな洋室」の室内装飾。「オシャレな和室」に関する情報は皆無だ(庭も同じ。イングリッシュガーデンの情報は沢山あるのに、日本庭園の情報はない)。和室にも床の間などの和の「デコレーション=設え」があるはずなのだが、ものすごく高級で文化財レベル(桂離宮)か、画一的で古くさい昭和風か、あるいは貧乏臭い「和モダン」しかない。「カジュアルで現代風でかっこいい和室」というのは言葉そのものが論理矛盾に陥っている。

和室が敬遠される理由その2:昔の和室の良さが現代の和室にはない

鉄筋コンクリート作りの大型旅館の片面が廊下の客室や、マンションの6帖和室。現代の「なんちゃって」和室には和室に本来ある魅力がない。日本家屋の良さは風通し、光の陰影、解放感、木の匂いなどにあるのだが、石膏ボード、大壁構造の壁、サッシの窓でできた和室からはそのどれもが失われている。高気密住宅で、襖や障子すら紙の代わりにビニールやプラスチックが貼られた和室では、唯一、昔のままの天然素材である畳の匂いが田舎臭く場違いにすら感じられる。

和室が敬遠される理由その3: 現代人は和室に合ったライフスタイルや身体感覚をうしなった

モノを使わない古来の日本人の生活を前提に作られた和室は、正座の苦手な現代人には身の置き場がないし、大量にモノを抱える現代人にとって収納の観点からも機能的でもない。本格的な和の設えは確かに美しい。でも、誰もそこに住みたいとは思わないのである。着物に草履姿が私たちにとって最もコンフォタブルでないように、和室は私たちにとって居心地のいい場所ではなくなっている。

。。。だから、和室を敬遠していた。いすみに古い家を買うまでは。

結局、そんな和室嫌いの私が買った家は、木と土と紙で出来た古い日本の家だった。

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「古民家=和」である必要はない。内装は和洋折衷にしよう。床はフローリングにしよう。ベッドとソファも置こう、と最初は意気込んでいた。

ところが。

通っているうちに、この寄棟造りの平屋の家のシンプルで調和の取れた魅力にすっかりノックダウンされてしまった。

まず、都会のマンションの和室の持つ、縮こまるような居心地の悪さは一切ない。和室の大前提である、大きな敷地に建てられた伝統工法の建物の力が圧倒的だからだろう。

それでもちゃんと坐れなければ和室の生活は辛いだろうと思っていた。だが「縁側」や「土間」といった床の高さを利用した「天然ベンチ」が至るところにあるおかげで存外、正座する必要はない。

まず、自分たちで障子を張り替えてみたら、次に座敷の壁と襖に貼ってあったボロボロの「からかみ」の張り替えをしたくなった。サンゲツのクロスではなく、からかみを貼りたいと思った。さすがに自分たちの手には負えないのでプロの力が必要だ。唐紙屋さんを回り、建具屋さんや経師屋さんと話をした。

漆喰や泥や竹でできた壁をゆっくり直す。直しながら、真夏には蚊帳を吊ろうか、冬には雪見障子に変えようかなどといろいろ考える。さまざまな和室の設えを見ているうちに、画一的だと思っていた和室の設えにも、選択肢と自由度があり、洋室と同じで「○○系」みたいな区分があることも分ってくる。

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特別仕様の「和」はとてつもなく高い、というイメージがあった。しかし実際にはシステムキッチンや輸入家具、ハイテク設備などの価格と比べると、建具や紙は決して高くはない。心と技のある職人さんたちもまだ残っている。

和室嫌いはすっかり返上した。職人さんたちの技術の継承のために、商品の品揃え充実のために、もっともっと和のインテリア、デザイン、デコレーションの情報が日本全国で増えることを切に祈っている。

 

IKEAのスツール、ARSEDA。和室に椅子を置くのは抵抗があるけど、これならOK。

バナナの皮で出来たIKEAのスツール、ARSEDA。和室に椅子を置くのは抵抗があるけど、これならOK。

 

 

 

 

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