仏人家族、いすみにやってくる

からかみを貼ったばかりのいすみの我が家に、8月初旬に一週間、フランス人家族が滞在した。

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やってきたのは私のフランスの学校時代の女友達、その夫と子供(娘13歳、息子9歳)の4人。彼らにとって初めてのアジア、初めての日本。それも25日間とすごくビッグな夏休みだ!

欧米人の夏休みは長い。かくいう私も外資系金融機関で働いていた時は、2週間の夏休みを享受していた。でも今回、来日したフランス人家族の夏休みは丸々一ヶ月。今年の夫の夏休みの4倍だ。彼らはパリでコンサルティング会社を経営しているのだが、顧客のいない8月は丸ごと事務所を閉めてしまうのだという。

そして、なんと、娘のパリの中学校の夏休みは丸三ヶ月あるそうだ。

こうしたビッグな夏休みを取る彼ら、ここ数年の夏の行き先は、ノルウェーのフィヨルド、カナダのケベック、イタリアのベネチア、ペルージャなど多彩である。なんでも、Home Exchangeというシステムを使って休みの期間中、パリの自宅を他人の家を交換できるようになってからというもの、どんどん行き先が多彩になってきたそうだ。

Home Exchangeは、サイト運営者に若干の手数料を払うものの、自宅を交換する家庭との間には一切の金銭のやりとりが生じない。つまり、自宅を他人に開放することとひきかえに、一ヶ月のバカンスの滞在費の大半を浮かすことができるというわけ。場合によっては車まで交換してしまうというから驚く。

Home Exchangeに登録された日本の家はまだほとんどないそうだ。長期休暇が一般的でなく、自宅を他人に貸すことにも抵抗がある日本人。そもそも他人のバカンスに貸せるほど立派な家に住んでいる日本人が少ないというのも登録が少ない理由か。くすん。。。

今回、日本人家庭とHome Exchangeすることができなかった彼ら、今回の日本旅行の旅費の一部は、Air BnBでパリの自宅を1ヶ月貸すことで捻出し、東京、金沢、京都などの主要都市では主にAir BnB経由で民泊した。

往復の渡航費に加え、外国人の4人家族が25日間をベタで日本観光しようとすると相当なお金がかかる。日本の観光地はおしなべて、「短期滞在=短い時間に最大限のサービスを提供し、最大限のお金を落としてもらうこと」を前提に作られているからだ。

これに対し、欧米人のミドルクラスの長い夏休みの目的は、ある意味、都市の自宅以外の「なるべく遠い場所」で「少しでも長く」過ごすことそのものにあるとも言える。つまり、バカンスに、高級リゾート、有名観光地、グルメといった、「ラグジュアリー」「家事がなくて楽」「すごくエキサイティング」のような要素の優先順位は低い。むしろ、一カ所に滞在して、じっくり、その土地を知り、文化を発見し、「家族で同じモノを見て、経験を共有する」ことが重要だというわけだ。

Home Exchangeで家一軒を無料で借りることに慣れている彼ら、1人一泊2万円するような旅館に泊まるのは論外だった。なにせ、それだけで4人×25泊=100万円になってしまう。

そうした長期滞在型の夏休みの事情もあり、私たちのいすみの古民家にも一週間、滞在してもらったのである。

とはいえ、いすみの家は修復もまだ始まったばかり、私自身、まだ土地勘もなく、長期に住んだこともないいすみの古民家に、1週間ものあいだ外国人ゲストに泊まってもらうことには正直、不安があった。

だが、結果的には、「日本の田舎の何気ない日常を、のんびり過ごすことで体験したい」という長期滞在型の欧米観光客にいすみは最適の場所であり、いすみの家は最適の宿泊施設だった。

なんといっても、いすみの寺社は京都や鎌倉の寺社とは違い、拝観料などなく、ほぼ無料。

無名な寺社でも、歴史があり、風格がある。歩き回って神社の鳥居と寺の門の違いを見て、その後、古民家に帰って仏間の仏壇と神棚を見れば、日本には仏教と神道の2つの宗教が混交しつつ併存してきたことがどんな本を読むよりよく実感できる!

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彼らが喜ぶのは「観光向けではない、人々の生活に根ざしたオーセンティックな風物」の質感や空気だ。

文化財の建築様式や仏像の由来の説明には必ずしも関心がない。

何より、日本の古民家は何よりも雄弁に欧米文明とは異なる日本の国の文化と風土を語る。

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それは、私たちが往々にして、ヨーロッパの有名な観光地化した教会より、田舎のひっそりした教会に惹かれること、教会の建築方法などの細かい説明を読んでもすぐ忘れてしまう代わりに、現地で感じた空気だけは覚えているのと同じだ。

また、いすみでは、他の観光客とすれ違うことは皆無だ。

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観光客は、訪れた場所で他の観光客と一緒くたにされること、とりわけ自国の観光客とのはち合わせを嫌う。

フランス人は相撲が好き。それで、東京では両国の相撲博物館に彼らを連れて行った.案の定、回りはフランス人観光客だらけだった。彼らはそのことをものすごくイヤがっていた。

洋の東西を問わず、観光客は他に観光客が行かないようなところに行って、ローカルな経験をしたいと思っている。そして自分が他の人が見ないものを見たことを、帰国後に周囲の人々に自慢したいのである。自分自身、観光しに来ているのだから、他に観光客がいないと喜ぶのは本当は馬鹿げているのだが。。。

異国で微妙にはたらく選民意識。私にも覚えがある。

その点で、いすみのローカル度、オーセンティック度、希少度は申し分ない。いすみにふんだんにあるのは、田んぼ、いすみに住んでいるのは、外国人に慣れていない人々だ。そして、都市化されていないから広告看板なども少なくて、景観がいい。もちろん、スタバもマクドナルドもない。

このシンプルでベタな田んぼの風景。高温多湿な空気。蝉の声。すべて高緯度ヨーロッパの出身者にとって極めてエグゾティックな代物なのだ。 IMG_1062

そう、かくいう私も、初めて渡仏したとき、なによりも強い異国情緒を感じたのは、イルドフランス地方の見渡す限りの豊かな小麦畑の光景だった。。。。

フランス人家族は、いすみ鉄道が貸してくれた自転車に乗り、いすみの里山に囲まれた平地を刈り入れ間際の少し黄色がかった青稲が見渡す限り続く中をひたすら縦横に疾走した。

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彼らをいすみに残すにあたり、私が心配したのは「言葉」と「食べ物」だった。が、そのいずれもが私の杞憂に終わった。

まず、「食べ物」だが、彼らにとって、いすみの食材の品揃えはあまりに楽勝だった。

フランス人の大好物、ラタトゥイユの材料のにんにく、トマト、ズッキーニ、ナス、タマネギはどれも新鮮なものが地元の農産物センターで買える。家から5分のところのスーパーランドには、大型のアサイージュースやオーガニック・ポテトチップなどのコストコ系の小洒落た輸入食材もある。もちろん、刺身や漬け物といった、「エキゾチック食材」もある。パリの友人にお土産で持って帰る日本茶の茶葉だって、専門店に行かなくてもスーパーで十分買える。

隣の睦沢町のパン屋、Pain de Naruの薪で焼いた秀逸なバゲットは、美味しいパンに食べ慣れたフランス人の舌にも「トレビアン」だった。

「言葉」の壁も高くなかった。

いすみに滞在中、フランス人の9歳の息子は不幸にして熱中症になってしまった。家族は早速、近所のセブンイレブンに駆け込み、フランスの常用薬の名を告げたところ、店員は早速、その名前をネット検索し、日本名を探しだし、それを通訳アプリを使って彼らに教え、近くのドラッグストアの場所を教えてくれたそうだ。

コンビニ店員のITリテラシー、恐るべし。

フランス人一家、私がいない間、自分たちだけで、布団を敷き、蚊帳を貼り、いすみ鉄道に乗り、大原海岸や、養老渓谷や、大多喜城に果敢に出かけていった。美容院にすら行った。そして、どこに言っても「白人」がいないこと、モノが観光地値段でないこと、出会う日本人がものすごく親切なこと、治安が良いことを心から喜んでいた。

下は、彼らが滞在中に撮った写真。

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一週間後にいすみに迎えに行った私に、フランス人夫は、自らのiPhoneに録音した、大多喜城からの帰途に聞いた、大多喜高校の剣道部の部活生たちの「イチッ、ニッ、サンッ」というトレーニングの掛け声を何度も聞かせてくれた。部活、盆踊り、蚊取り線香、セミ。。。。日本人にとっては、あまりに当たり前で、観光価値があるとは思えないような日常にこそ、彼らは感動した。

逆に、フランス人が日本であまり喜ばなかったもの。

日本人の若い女性のファッション。お洒落なパリジェンヌの私の友人、日本のファッションは「ダサイ」「時代遅れ」と一刀両断。ユニクロ、無印良品には見向きもしなかった。「日本人女性は世界で一番オシャレ」などという自画礼讃メディアは当てにならない。。。。たしかに、日本人のオシャレはアジア的ガラパゴスというか、欧米のメインストリームからはちょっと外れているのかもしれない。。。

高野山も、観光地化され過ぎていて俗っぽい、という理由で、あまりお気には召さなかったようだ。

私自身、ほぼ15年ぶりにフランス人と長い時間を過ごしたことは、良い自己発見の機会となった。

夕食時に国際問題に口角泡飛ばして自己主張するようなコッテリしたフランス風議論にはもはや全く付いていけなくなっていること。個人的には一ヶ月近くも続くフランス型滞在型体育会系金欠バカンスよりも、2、3日の日本型短期型ゆったり贅沢バカンスの方を好もしく感じてしまったこと。

やっぱり私は日本人だなあ。

また、日本滞在中でも、親戚の誕生日を忘れずにすかさず家族でハッピーバースデーの国際電話を入れる彼らの姿や、バカンスの間中、家族4人が片時も離れずに行動する姿を見たときには、日本人はフランス人よりずっと個人主義的で、家族バラバラだなあと感じたりもした。

ともあれ、フランス人家族は初めての日本で沢山の経験と思い出を持って大満足で帰国していった。いすみの自然と人々のすばらしい助けのおかげで、私の暑かった「おもてなしの夏」もつつがなく終わったのだった。

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