マーガレット•ハウエルのセーター

長く証券会社のOLだったから、若い時から随分、服にお金を使って来た。衣食住のうち、一番お金をかけたのは間違いなく服だ。とくに一番、金回りの良かった30代後半は、随分、いろいろなブランドの服に挑戦した。

一番、散財したのは靴とスーツ。マノロ•ブラニクのハイヒールやマルニのワンピースは持っているだけで幸せで、身に付ければさらに幸せだった。一万円札が高級ブランドのファッションに次々に化け、ブティックから出るたびに「よし、また稼ぐぞ!」と心を新たにしていた。

「ファッションは投資」と考えていた当時の私にとっての高級服は間違いなくウィークデーの昼と夜のためのもの。リゾートや休日にのんびりする時のためにブランド服を買うという意識は全くなかった。化粧をせず、プレゼンも顧客接待もデートもない日に高級な服を来て何になるだろうか! 折からアディダスなどのスポーツウェアを街着として着ることが流行し、GAPやZARAといったファストファッションが隆盛の時代を迎えていた。そんな中、人に会わないオフに着るアイテムに1万円以上を払うことは滅多になかった。

会社勤めを辞めて「オン」が減ると自然と服に費やすお金は激減した。エスニックに目覚めた40代以降は、夏のワンピースなど自分で布を買って来て作ることもある。

そんな私に義母が唐突に買ってくれたマーガレット•ハウエルのセーター。正価で30240円なり。

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何の変哲もない、カーキ色の丸首セーター。ユニクロなら、10分の1の価格かも。

マーガレット•ハウエルというのは私にとっては長く謎のブランドだった。

マーガレット•ハウエルは間違いなく高級ブランドだが、「オフ」の服に特化している。

コットン•シャツ、ウールのセーター、ダブダブズボンやジャージーの部屋着。色はどれも、グレー、ネイビー、ホワイト、ブラックの無地ばかり。身体のシルエットを強調しない、個性のないあっさりしたデザイン。

ナチュラルでカジュアルなオフのための服。。。。コンセプトは無印良品の服とほぼ同じ。なのに値段は圧倒的な舶来品値段。バーゲンやセールもあまりなく、いつ行っても同じような服を売っている。

だから、店に入ってウィンドウショッピングしても、なかなか思い切って買う気がしなかった。

いつも通り、何も買わずに出ようとすると、「明子さん、いいセーターじゃない、買ってあげるわよ」、と一緒にいた義母がポンと買ってくれた。「えっ、どうせ買ってくれるなら、もっとお洒落なものを。。。」という一言が言えなかった。

案の定、この超地味なセーター、オンに着て行こうとするとどうも決まらない。ネックレスやストールなどで工夫しても、どうしても「晴れ」の雰囲気が出ない。シルエットがダブダブだから、スカートやジャケットと合わない。

仕方なく、家の近所の買い物や、PCに向かって仕事をしている時、洗濯物をベランダに干す時などに、スッピンのまま、この3万円のセーターをジーパンの上に着る。

するとどうだろう。

スッピン顔にボサボサ頭なのに、鏡で見る自分はユニクロのセーターを着ていた時より少しだけあか抜けて見える。

違いは実に微妙だ。

丸首の開き。素材と色。丈。シルエット。

本当に微妙なのだが確実な違い。マーガレットハウエルのセーターはカジュアル服として、あらゆる点で完璧なまでに洗練されている。

マーガレットハウエルがずっと多くの百貨店に店を構え続けているのは、この絶妙な洗練感を愛する固定ファンのせいだのだ。

その上質感は、吊ってある商品を見るだけでは駄目で、着てみて初めて分かる。

それも、デパートの試着室ではなく、自宅で庭仕事をする時にスッピンで着てみるのだ。

良いモノを知る、とは恐ろしい。

3万円のセーター1枚は、3000円のセーター10枚よりずっといい。

いつしか10枚近くもあるユニクロや通販のセーターには袖を通す気がしなくなってしまい、今年の秋は毎日、このセーターばかり。

今の私はオフの時間はオンの時間よりずっと長い。人生の大半がオフといっても良いほどだ。

だからこそ、カジュアル服に良いものを。

年一度のマルニよりも、毎日着るマーガレットハウエル。

義母がそこまで考えて買ってくれたかどうかは分からない。だが、買ってもらったことで初めて分かった上質な日常着の良さ。結果的に今の私に最高のプレゼントとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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