カンタと刺し子展

日本民芸館の「カンタと刺し子展」へ。

駒場の閑静な住宅街にある日本民芸館は私のお気に入り。ここに来ると、民芸運動がどういう運動だったのか、柳宗悦が何を好んだのか、「用の美」とはどういう美しさなのかが良く分かる。展示品だけでなく、建物や調度品もアート。

都内の建物そのものを楽しめる美術館としては、これ以外に白金台の庭園美術館がある。

建物や内装そのものを楽しめる都内の美術館としては、ここ以外に白金台の庭園美術館や日本橋の三井記念美術館がある。

今回の目的はインドの刺し子刺繍「カンタ(kantha)」。カンタは東インドの西ベンガル州、オリッサ州やバングラデシュ一帯に広がる刺し子の施された敷布のこと。カンタの古布を収集されておられる岩立広子さんのコレクションの特別展をやっているのだ。

カンタのモチーフは鳥、象、馬などの動物、木、ペーズリー、蓮の花、踊る人など。それがマンダラ状に布に刺繍されていて、一つの小宇宙を創り出している。下手ウマのプリミティブ絵画のような素朴なモチーフ、茜、藍など天然染の糸を使った美しい色合い、全体を覆い尽くす不揃いの並縫い。ちょっとマチスやカンディンスキーを思わせるようなモダンで叙情的な表現。

会場は撮影禁止なのが残念。これは日本民芸館のHP上のポスター。

会場は撮影禁止なのが残念。これは日本民芸館のHP上のポスター。

しびれる。。。どのカンタも全部好きだった!

ちなみに、私はインドの<manubhani painting=ミティラー画>というジャンルの絵も大好き。

これがミティラー画。カラーのものよりモノトーンの方が美しい

これがミティラー画。カラーよりモノトーンのものが好き。ネットでいくつか購入。

カンタのヘタウマな画風や叙情的な雰囲気はミティラー画と似ている。

そのはず。両方ともプロの刺繍作家や画家ではなく、インドの素人の女性=主婦たちが、家事の合間に家族たちのために作ったアートだという共通点がある。

農婦が作るものだから、絵は下手だし、モチーフは伝統的で保守的。

でも、カンタやミティラー画を愛する人たちは、身の回りの材料を使って奇をてらわない謙虚さ、つつましさ、手仕事特有の不規則さ、天然の風合い、匂い立つ家族に対する愛や素朴な信仰心といったものにこそ打たれる。それはまた、柳宗悦が提唱した民芸運動の心そのものである。

でも「カンタ」について書かれた説明には胸を突かれる思いがした。

カンタの制作者の女性たちは、外で働くことはおろか、お金を持って買い物に行くことすら許されず、家に閉じ込められた生活をしていた(いる?)という。そうした生活の中で、お金を使うことも、外の世界を見ることも許されない女性に出来る唯一の自己表現がカンタ、というわけだ。

ミティラー画の書き手の女性の置かれた状況も、確か似たようなものと読んだように記憶する。

女性の地位の低さこそが、たぐいまれな手仕事の作品を生む。。。。マレー半島のプラナカンの女性たちが作った素晴らしいビーズ細工を思い出した。プラカナンは豊かなブルジョワだったが、その社会に属する女性たちが、男性優位社会で家に閉じ込められていたという点は同じだ。

私のビーズ細工とは比べ物にならない細かさ!

私のビーズ細工とは比べ物にならない細かさ!

手仕事が花咲く場所は、近代産業が発達しておらず、女性の教育水準と社会的地位が低く、娯楽が乏しく、社会の流動性の低い場所だ。

教育を受けた女性は、一般に教育の投資回収を狙って貨幣社会で雇用機会を探すようになり、そういう女性はもう手仕事で生業を立てようとはしなくなる。家の外で仕事をするようになれば、趣味で細かい手仕事をやる根気や時間もなくなる。家族のための衣服や調度品は手作りして自給自足する代わりに、外部からお金と交換に買うようになる。

だから素晴らしい手仕事のある国は、女性の地位が低く市場経済が未発達な国(インド、モロッコ、インドネシアなど)ばかり。そうした国でも手仕事は19世紀から20世紀に減り、21世紀になるとさらに減っている。

信じがたいほど長い時間をかけて針を動かし続けて一枚の敷布を刺繍したカンタの作り手。一切の社会活動を禁じられて、一生家に閉じこもってカンタを作ることでしか自己実現が出来なかった女性は可哀想なのか? それとも、運命に従い、他の全てを諦めることで刺繍に没頭し、世界観を表現することが出来た彼女たちは幸せなのか?

一言では結論付けられない深い問題だ。

カンタは今でも作られているのか?どんな人たちが作っているのか? インドで訪問したい土地がまた増えた。

 

 

 

 

Share on FacebookShare on Google+Tweet about this on TwitterShare on LinkedInPrint this pagePin on Pinterest

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です